2026/03/20 09:40

地中海に浮かぶフランスの島、コルシカ。

山と海が近接するこの土地では、独自の気候と土壌を生かした個性的なワインが造られています。

近年、ナチュラルワインに関心を持つ方の間でも、コルシカの生産者に注目が集まりつつあります。
フランス領コルシカのワイン生産者の中でも、ビオディナミ農法に取り組むドメーヌとして知られているのがドメーヌ・ペロ・ロンゴ(Domaine Pero Longo)です。
ドメーヌ・ペロ・ロンゴは、ビオディナミ農法を取り入れた畑仕事や、独自の醸造方法など、自然環境と調和したワイン造りに取り組んでいる生産者として紹介されることがあります。

この記事では、コルシカ南部の自然を背景にしたドメーヌ・ペロ・ロンゴの特徴やワイン造りについて解説します。

ドメーヌ・ペロ・ロンゴとは|コルス・サルテーヌのワイン生産者

ドメーヌ・ペロ・ロンゴは、コルシカ島南部のセラッジア(Serraggia)村にある家族経営のワイナリーです。
周辺にはフィガリの町があり、ドメーヌから車で30分ほどの距離に位置しています。

この地域は、風化した花崗岩由来の砂質土壌が広がる土地として知られています。
こうした土壌から育つブドウは、比較的やわらかなテクスチャーのワインを生み出す傾向があるとされています。

ドメーヌの近くには「ロカピーナのライオン(Lion de Roccapina)」と呼ばれる巨岩があります。
崖の上にある岩がライオンの姿に見えることから、コルシカ南部の観光名所として知られる存在です。
ペロ・ロンゴでは、この象徴的な岩の名前をトレードマークやキュヴェ名に用いることがあります。

1965年から続く家族の歴史
ドメーヌの歴史は、1965年に現在の当主カンタン・リシャルム氏の祖父が土地を取得したことから始まります。
当初は農業を営みながら、ワインは家族が飲むために少量造られていました。

転機となったのは1994年です。
この年からドメーヌ元詰めとしてワインの販売を開始し、本格的なワイン生産者として歩み始めました。
現在は3代目にあたるカンタン・リシャルム氏がドメーヌを引き継ぎ、畑とワイン造りを担っています。

また、ペロ・ロンゴではブドウ栽培だけでなく、牛や羊、豚の牧畜やオーベルジュの運営なども行われています。
こうした多様な農業活動も、ドメーヌの経営を支える要素となっています。


コルシカ南部のテロワールとブドウ品種


海に近い畑が生む独特の気候条件
ドメーヌ・ペロ・ロンゴの畑は、コルシカ島南部の海に近い場所に位置しています。
標高は約45メートルと比較的低く、地中海の影響を受けやすい環境です。

朝晩には海から湿った空気が流れ込み、夏の早朝には気温が9℃ほどまで下がることもあります。
一方で日中は30℃前後まで上がるため、昼夜の寒暖差が生まれやすい気候です。
こうした温度差はブドウの成熟に影響を与える要素のひとつとされており、果実味とバランスを保ったブドウが育ちやすい環境といわれています。

花崗岩由来の砂質土壌
この地域の土壌は、コルシカ南部に特徴的なアレンヌ・グラニティックと呼ばれる風化花崗岩の砂質土壌です。
粒子が細かくさらさらとした質感を持ち、水はけがよい土地として知られています。

こうした砂質の土壌は、ブドウの根が地中深くまで伸びやすい環境をつくると考えられています。
また、この土地から育つブドウは、比較的やわらかなテクスチャーを持つワインにつながることがあるとされています。

さらに、砂質の土壌はフィロキセラ(ブドウネアブラムシ)の被害が広がりにくい環境といわれています。
ペロ・ロンゴでは、この特徴を生かし、一部の区画で自根のブドウ樹が残されています。

コルシカらしいブドウ品種
ペロ・ロンゴでは、コルシカの環境に適応した品種を中心にブドウを栽培しています。

赤ワインには、コルシカを代表する品種であるニエルチオシャカレロなどが用いられます。
これらは地中海の気候に適応したブドウとして知られ、果実味とスパイス感を持つスタイルになることがあります。

白ワインでは、地中海沿岸で広く栽培されているヴェルメンティーノが中心です。
爽やかな酸味と香りを持つ品種として、多くのコルシカワインに使用されています。

このように、ペロ・ロンゴのワインは、土地の土壌や気候、そして地域に根付いたブドウ品種によって特徴づけられています。

ビオディナミ農法への転換


転機となった土壌微生物学者の講演
ドメーヌ・ペロ・ロンゴがビオディナミ農法に取り組み始めたきっかけは、先代ピエール・リシャルム氏が土壌微生物学者のクロード・ブルギニョン氏の講演を聞いたことでした。
土壌の微生物がブドウ栽培に与える影響について学んだことで、畑の環境をより自然な状態に近づける農法に関心を持つようになったといわれています。

その後、2000年ごろからビオディナミ農法の実践を始め、2003年にはデメテール認証を取得しました。
ビオディナミ農法では、土壌や植物、動物など自然の循環を重視した農業が行われます。
ペロ・ロンゴでも、畑の環境全体のバランスを整えることを意識した栽培が続けられています。

自然の循環を生かす畑づくり
畑では、ビオディナミ農法で用いられる調剤(プレパラシオン)が使用されています。
例えば、牛の角に牛糞を詰めて土中に埋める「500番」は、土壌微生物の働きを活発にするために用いられます。
また、水晶の粉末を用いる「501番」は、光合成を促す目的で使用される調剤です。

さらに、イラクサやカモミールなどのハーブを用いた調剤も、畑の状態に応じて使われています。
こうした取り組みは、土壌や植物の自然な働きを支えるためのものとされています。

また、畑では鋤(すき)を入れず、雑草を残す管理方法が採られています。
雑草が生えることで植物同士の競争が生まれ、ブドウの根がより深くまで伸びやすくなると考えられているためです。
同時に、雨による土壌流出を防ぐ役割も期待されています。

冬から春にかけては羊が畑に放たれ、雑草を食べることで自然な除草が行われます。
羊の糞は土壌に還元され、肥料として役立ちます。
こうした循環型の管理も、ペロ・ロンゴの畑づくりの特徴のひとつです。

自根のブドウ樹とマルコタージュ
ペロ・ロンゴの畑では、一部の区画で自根のブドウ樹が育てられています。
これは、前述のように砂質の花崗岩土壌がフィロキセラの生息に適さない環境であることが関係しています。

ブドウの更新には「マルコタージュ(プロヴィナージュ)」と呼ばれる方法が用いられています。
これは既存の樹の枝を土に埋めて新しい株を育てる方法で、接ぎ木を行わずにブドウ樹を増やせます。

このように、ペロ・ロンゴの栽培は、土壌の特徴や自然環境を生かしながら行われています。
ビオディナミ農法の考え方と地域の条件を組み合わせた畑づくりが、ドメーヌのワイン造りの基盤となっています。

独自の醸造哲学


横向きで使う卵型コンクリートタンク
ドメーヌ・ペロ・ロンゴの醸造で特徴的なのが、卵型のコンクリートタンク(ウッフ)の使い方です。
卵型タンクは内部で自然な対流が起こりやすく、ワインの発酵や熟成に適した容器として知られています。
多くの場合は縦向きで使用されますが、ペロ・ロンゴではタンクを横向きに寝かせて使用しています。

この方法を選ぶ理由について、当主カンタン・リシャルム氏は「鶏が産んだ卵は横向きの状態にある。縦に置くのは自然ではない」という考えを持っているといわれます。
横向きにすることで、タンク内の対流が左右対称ではなくなり、より自然な動きが生まれると考えられています。

タンク自体も自作されており、ドメーヌ独自の醸造設備となっています。
卵型タンクの内部では自然に液体が循環するため、一般的な醸造で行われるバトナージュ(澱をかき混ぜる作業)を行う必要がほとんどありません。
その結果、過度な抽出を避けながらワインを熟成させられるとされています。

火山性天然硫黄を用いたSO2管理
ペロ・ロンゴのワイン造りでもうひとつ特徴的なのが、亜硫酸(SO2)の扱い方です。
ワインの品質を保つためにSO2は多くの生産者が使用しますが、ペロ・ロンゴでは添加量をできるだけ少なく抑える方針がとられています。

完全に無添加にするのではなく、必要に応じて少量を使用するという考え方です。
その際に使われるのが、イタリアのエトナ山から取り寄せた火山性の天然硫黄です。
この硫黄を水に溶かしたり、酸素と反応させて煙状にしたりしながらワインに用いる方法が取られています。

一般的な液体のSO2と比べると扱いが難しいとされており、コルシカのビオディナミ生産者の中でも、この方法を醸造に取り入れている例は多くないといわれています。
また、硫黄は一度に加えるのではなく、少しずつ段階的に加えることでワインの状態を見ながら調整していくという考え方が取られています。

こうした醸造方法は、自然環境を尊重する栽培と同様に、ワインの個性を引き出すための試みのひとつといえるでしょう。

ドメーヌ・ペロ・ロンゴのワインの魅力

ドメーヌ・ペロ・ロンゴのワインは、コルシカ南部の環境と栽培・醸造の考え方が重なり合うことで、独自の個性を生み出しています。
特徴として挙げられるのが、やわらかなテクスチャーと、地中海の土地を思わせる果実味です。

畑が広がるコルシカ南部は、風化した花崗岩の砂質土壌が多く見られる地域です。
水はけがよく、ブドウの根が地中深くまで伸びやすいといわれています。
こうした環境で育つブドウは、口当たりが比較的やわらかなワインにつながることがあります。

また、海に近い畑の気候もワインの味わいに影響を与える要素のひとつと考えられています。
昼夜の寒暖差がある環境で成熟したブドウからは、果実味とバランスを備えた味わいが表現されることがあります。
ニエルチオやシャカレロといったコルシカの品種、そしてヴェルメンティーノなどの地中海沿岸の品種が、その土地らしい個性を形づくっています。

さらに、ビオディナミ農法を取り入れた畑仕事や、添加物をできるだけ抑えた醸造方針も、ワインのスタイルに影響を与える要素といえるでしょう。
自然環境の循環を意識した栽培と、ワインの状態を見ながら丁寧に進められる醸造によって、ブドウ本来の表情を生かしたワインが造られています。

こうした背景から、ドメーヌ・ペロ・ロンゴのワインは、コルシカのテロワールを感じたい方や、ナチュラルワインに関心を持つ方から注目を集めつつあります。
土地の環境と造り手の哲学が重なり合うことで生まれる味わいは、コルシカワインの魅力を知るひとつのきっかけになるかもしれません。

まとめ:コルシカの自然を映すワイン

ドメーヌ・ペロ・ロンゴは、コルシカ島南部の自然環境を背景にワイン造りを続けている生産者です。
海に近い畑の気候や、風化した花崗岩由来の砂質土壌といった土地の条件を生かしながら、ブドウ栽培と醸造に取り組んでいます。

畑ではビオディナミ農法を取り入れ、羊による除草やハーブを用いた調剤など、自然の循環を意識した管理が行われています。
また醸造では、卵型コンクリートタンクを独自の方法で使用したり、硫黄の扱いを工夫したりするなど、ワインの状態を見ながら丁寧に造られています。

こうした取り組みは、土地の個性をワインに表現することを重視したものといえるでしょう。
ニエルチオやシャカレロ、ヴェルメンティーノといったブドウ品種を通して、コルシカの風土を感じられるワインが生み出されています。

ナチュラルワインに関心を持つ方にとっても、コルシカという産地の魅力を知るきっかけになる生産者のひとつです。
ドメーヌ・ペロ・ロンゴのワインは、地中海の自然と造り手の哲学が重なり合うことで生まれる味わいを楽しめる存在といえるかもしれません。