2026/02/13 10:43

シャブリと聞くと、すっきりとした味わいの白ワインを思い浮かべる方も多いかもしれません。

一方で、その風味がどのような土地や人の手によって形づくられているのかまで意識する機会は、そう多くはないでしょう。


Château de Béru(シャトー・ド・ベル)は、シャブリの南東に位置する小さな村・Béru(ベル)に拠点を置くドメーヌです。

400年以上にわたり同じ土地と向き合ってきた歴史を持ち、畑の再生や栽培方法の見直しを通じて、現在の姿へとつながっています。

本記事では、Château de Béruのワインを、その歩みや畑への向き合い方を中心にご紹介します。

ワインに詳しくない方でも、生産者の背景を知るきっかけとして読み進めていただければ幸いです。


シャブリ南東・Béru村に根を張る、400年以上続くドメーヌ

Château de Béruは、シャブリ地区の南東にあるBéru(ベル)という小さな村に本拠を構えています。

この地で400年以上にわたり続いてきた名家が、現在のドメーヌの基盤です。


所有するシャトーには、15世紀に造られたとされる日時計と暦が今も残されているといいます。

長い年月を経てもなお存在し続けているこれらの遺構は、土地と時間の積み重ねを象徴するものといえるでしょう。


Château de Béruの歴史は、単に古いというだけではありません。

世代を超えて受け継がれてきた土地があり、その土地とどのように関わり続けるかを、時代ごとに選択してきた歩みそのものが、現在のドメーヌを形づくっています。



フィロキセラ禍と畑の放棄│そして再植樹という選択

20世紀初頭、ヨーロッパの多くのぶどう畑を襲ったフィロキセラ禍は、Château de Béruにも大きな影響を与えました。

この時期、所有していた畑は一度、放棄されることになります。


畑が再び動き出したのは1980年代に入ってからのことです。

当時の当主であったエリック・ド・ベル伯爵は、Clos Béru(クロ・ベル)を含む区画に再植樹を行いました。

長く手つかずだった土地に改めてぶどうを植えるという選択は、その後のドメーヌの歩みにつながるものとなりました。


ただし当初は、自らワインを造るのではなく、収穫したぶどうをネゴシアンへ売却する形が取られていました。

ドメーヌとしての本格的な歩みは、もう少し先の時代へと続いていきます。


ネゴシアンへの売却から家族によるドメーヌ運営へ

1980年代の再植樹以降、Château de Béruの畑で育てられたぶどうは、ネゴシアンへ売却されていました。

その後、これらの畑は近隣の栽培家に貸し出されていました。


2006年、エリック・ド・ベル伯爵が他界したことをきっかけに、状況は大きく変わります。

伯爵夫人のロランス氏と、その娘であるアテナイス・ド・ベル氏が、ドメーヌを引き継ぐことになりました。

ここからChâteau de Béruは、再び家族の手によって運営される体制へと移行します。


畑を所有しているだけでなく、自分たちの判断で栽培し、ワインとして形にしていく。

その選択は、これまでの歴史を尊重しながらも、新しい一歩を踏み出すものだったといえるでしょう。


アテナイス・ド・ベルが選んだワイン造りの道

現当主であるアテナイス・ド・ベル氏は、もともとワインの世界とは異なる分野でキャリアを積んでいました。

パリの投資銀行で働いていた彼女が、その職を離れたのは2002年のことです。


その後、ブルゴーニュのボーヌにある醸造学校で栽培と醸造を学び、さらにサヴィニー・レ・ボーヌのChandon de Briailleで実地経験を重ねました。

畑や醸造の現場に立ち、ぶどうと向き合う時間を通じて、ワイン造りの基礎を一つ一つ身につけていきます。


クロ・ベルのテロワールを表現し環境を守るための農法転換

Château de Béruが大切にしている区画の一つが、Clos Béru(クロ・ベル)です。

この畑の個性をできるだけそのまま表現するために、ドメーヌでは栽培方法を見直してきました。


2005年、環境への配慮と畑の持続性を考え、ビオロジック農法を採用します。

さらに2011年からは、畑を取り巻く環境全体との関係性を重視するビオディナミ農法へと移行します。


土地の状態をよく観察し、ぶどうが育つ環境を整えることで、結果として畑の特徴がワインに反映されると考えられています。

この農法転換は、クロ・ベルという区画の持つ性格を、長く守り続けるための取り組みといえるでしょう。


土中バランスを重視した現在の栽培の考え方

Château de Béruの栽培で重視されているひとつが、土の中のバランスです。

化学肥料を使用しない理由は、ぶどうの成長に関わる微生物やミネラルの働きを妨げないためです。

土の中で起こる自然な循環を保つことが、ぶどうの生育環境を整える一助になると考えられています。


また、畝と畝の間に生える草も除草剤に頼らず、馬を使うことで対応しています。

定期的に肥料を与えるのではなく、畑の状態を見ながら必要最小限の手入れにとどめ、土中バランスを維持する点も特徴です。


こうした取り組みによって、ぶどうの根はより深く土中へと伸びていくと考えられています。

そして表面の環境変化に左右されにくくなり、土の成分をじっくり吸収できるようになることが期待されています。

目に見えない部分に時間をかける姿勢が、Château de Béruの栽培を支えています。


冷涼なシャブリでの病害対策とぶどう自身の力

シャブリは冷涼な気候に位置する産地であり、ぶどうにとっては穏やかな環境とはいえません。

湿度の影響を受けやすく、ベト病やうどんこ病といった病害のリスクもあります。

Château de Béruでは、こうした条件を前提とした栽培が行われています。


各畑の状態を細かく観察し、必要に応じて自然由来の硫黄やハーブなどを用いながら、慎重に対応しています。

あらかじめ強い処置を行うのではなく、畑ごとの状況を見極める姿勢も特徴です。


こうした積み重ねにより、ぶどうが病害に対応しやすい環境を整えていく考え方が取られています。

人の手で完全に管理するのではなく、ぶどうが自らの力で育つ環境を整える。

その考え方が、ドメーヌの栽培全体に通じています。


Château de Béruのワインを理解するために

Château de Béruのワインは、味わいの印象だけで語るよりも、その背景を知った上で向き合うことで、より理解が深まるでしょう。

長い歴史を持つ土地が一度は途切れ、再び畑として再生されてきた過程。

栽培方法を見直し、環境との関係を丁寧に整えてきた現在の姿。


こうした要素が重なり合い、ワインとして形になっています。

派手な表現や分かりやすい特徴を前面に出すタイプではなく、土地や畑の個性が静かに表れるスタイルといえるでしょう。


ワインに詳しくない方にとっても、生産者の歩みを知ることは、味わいを想像する手がかりのひとつになります。

Château de Béruは、シャブリという産地のひとつの表情を伝えてくれる存在といえます。


まとめ|歴史と畑を引き継ぐということ

Château de Béruは、400年以上続く歴史を背景に、畑の放棄と再生、世代交代を経て現在へと続くドメーヌです。

過去をそのまま守るのではなく、時代ごとに選択を重ねながら、土地との関係を築いてきました。


ビオロジック、そしてビオディナミへの転換も、クロ・ベルのテロワールを表現し、それを支える環境を守るための、自然な流れとして行われています。


こうした背景を知った上でワインに向き合うと、シャブリという産地の見え方も少し変わってくるかもしれません。

Château de Béruは、ワインを通して土地と時間の積み重ねを感じ取るための、ひとつの入り口となる存在です。


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